大阪を訪れた記念に、ちょっと奮発してでも大阪らしい“粋”なグルメを味わいたいなら「ミシュランガイド」掲載店は外せません。今回はふぐ料理の職人技、割烹のおまかせコースを、TikTokで大人気のスウェーデン人夫&日本人妻のご夫婦が体験。和食の妙味や大阪が誇る“出汁文化”を凝縮した一杯もあわせてご紹介します。
大阪といえば、古くから“くいだおれのまち”として知られ、にぎやかな商店街から風情ある路地裏まで、おいしいものであふれています。たこ焼きや串カツなどの庶民の味も魅力ですが、職人技が光る「ふぐ料理」やおまかせ料理を味わう「割烹」をはじめ、大阪発祥とされる食文化が数多く根付いていることも、この街の誇りです。
そんな“大阪の粋”を感じられるミシュラン・ビブグルマン掲載店から、話題の5軒をセレクトしました。いずれも、素材と技にこだわり、おもてなしの心を感じさせる名店ばかり。
今回はTikTokで大人気のスウェーデン人&日本人のご夫婦と一緒に訪問し、とっておきの料理を味わうとともに大阪らしい食文化にも触れる体験を満喫しました。
Guide
てっちり夕凪橋多古安
初代から受け継ぐ伝統と技術でふるまう、ふぐ料理の名店
大阪は「ふぐのまち」と呼ばれるほど、ふぐを食べる文化が根付いているまちであることをご存じでしょうか。今でこそ専門店の数は減ったものの、特に寒くなるとふぐ料理が食べたくなる“愛好家”は少なくありません。
今回ご紹介するてっちり夕凪橋多古安(たこやす)は、昭和4年より大阪・朝潮橋で店を構える老舗中の老舗。冬の味覚・ふぐを知り尽くした店主が代々職人技をふるまい、地元客を中心に愛されてきた、ミシュラン2つ星獲得のふぐ料理の名店です。
暖簾をくぐると、古き良き昭和にタイムスリップした気分に。料理をふるまう側もふるまわれる側もここで過ごすひとときを大切に、慈しんできたことが伝わる空間です。
「実は、ずっと気になっていたことがあって……」と切り出したヴィンセントさん。「ふぐって猛毒があるじゃないですか。来日したばかりの頃は恐怖心があって、本国で暮らす母親も今でも『ふぐなんて食べて大丈夫?』と心配するほど。どうして安全に食べられるのか、知りたいです」。
ヴィンセントさんの不安に寄り添うように、店主は実際に板場へと案内してくれました。ふぐを安全においしく提供するためのさばき方、そして部位ごとに使い分ける包丁について説明。長年の使用で刃が極限まで削れた包丁を手に、伝統を守る重みを伝えてくれました。
「うちのてっさ(ふぐの刺身)は特別」だと店主。「皿が透けるほどうす切りするのは、そうしないとふぐの身は弾力があって硬いから。熟成させるから厚めに切ってもやわらかいんだよ」。
店主の話を聞いたふたりは、これまでに食べたことがあるてっさを思い浮かべながら、「厚切りのてっさって、どんなだろうね」「早く食べてみたい」と、早速、用意されたお部屋へ向かうことにしました。
こちらが同店自慢のふぐの刺身「てっさ」。皿の模様が透けるほどうすく切るイメージがある従来のてっさと比べると、かなり肉厚。箸ですくって持ち上げると、その厚みをより一層実感します。
ヴィンセントさんがおいしそうに頬張るのをほほえましく眺めていた双葉さんも箸を伸ばして一口 。「ほんとだ、身がしっかりしているのに驚くほど柔らかいこのてっさもくせになりそう」と満面の笑みを浮かべました。
※普段はコース料理(税込25,300円/サービス料込)の一部として提供される「てっさ」。ふぐの入荷は毎年9月下旬〜5月ごろまで。
冬から春にかけて、多古安ではふぐが主役ですが、初夏にははもが入荷します。どちらも旬があり入荷時期が限定される高級食材ですが、特別な日の食事を肩肘張らずに楽しめるのは、同店がかもしだす、どこか家庭的な雰囲気のせいかもしれません。気取らないもてなしの心も大阪らしくて魅力があり、料理とともにしっかりと伝わってきます。
職人の技と温かなおもてなしに触れ、ふたりもすっかり同店でいただくふぐ料理のとりこになったようです。
うん、めっちゃおいしい! 確かに、厚みがあって、ふぐの食感とか淡白だけど独特の風味が感じられる。付け合わせのポン酢にふぐの持ち味が負けていないね。薬味との相性も抜群だよ。食べやすい! 寒い時期に食べたくなるお鍋料理の中でもてっちりは特別な存在で、私たちも年に一度、お正月に家族で囲むぐらい。大将の目利きと確かな技術で調理されたてっちりはひと味もふた味もおいしく感じられました!
割烹 踝(くるぶし)
「おまかせ」コースで和食の妙味を堪能
大正半ば、料亭よりも気軽に楽しめる場として生まれた「割烹」。大阪発祥といわれるこのスタイルは、素材を生かす食文化と大阪人のサービス精神の賜物です。厨房が奥にある料亭とは異なり、板前との会話やカウンター越しに広がる調理の臨場感、そして目の前で仕上げられるできたての料理を、一品ずつ丁寧に味わうことこそが割烹の醍醐味といえます。
浪花町の静かな通りに佇む「踝(くるぶし)」もまた、そんな粋な時間を紡ぐ一軒です。
暖簾をくぐるとカウンター席が見える店内は、大人の隠れ家にふさわしい高級感と静謐な空気で満ちていました。
この日ふたりが体験したのは、日本ならではの「おまかせ」。料理人が旬や素材の状態を見極めて、一番おいしい形で提供する料理を客がいただく、日本独自のスタイルです。
この日はおまかせコースの中から定番の3品を試食することができました。
まずは先付けから。ひと口サイズの炙った魚を上品な出汁で味つけし、まろやかな黄身酢をあしらった小鉢です。ガラスの器に盛られたひと皿は、きらびやかに光を反射して、美しい工芸品のよう。淡い旨みとやさしい酸味が調和し、ひと口で日本料理の奥深さが伝わってきます。
和食ではあるものの、家庭では再現するのがむずかしいプロの技が行き渡ったひと皿に、ふたりは思わず目をみはります。
「すごく、きれい。写真を撮ってもいいですか?」。店主に確認してからスマホを取り出し、自ら撮影を試みるヴィンセントさん。
次に、お椀に入った料理が運ばれてきました。ふたを開けると、白だしでじっくり煮含められた大根に、炙った松茸をあしらった贅沢な椀ものです。
ふたりはほぼ同時に食べ終わると「シンプルなのに、奥深い味」と感想をもらしました。「素材と出汁の組み合わせが完璧だね」と話しかける夫に「炊き方も、味付けも、洗練されているよね」と妻も笑顔を浮かべました。
続いて、運ばれてきたのは焚きものです。
ぶりの身を崩さないようにふっくらと煮て、ほんのり甘みのある出汁がしみわたる、上品なひと皿です。箸を入れるとほろりと身が崩れ、ぶり特有の脂の旨みがあとを引くおいしさです。
「“おまかせ”って素敵な文化だよね」と双葉さん。ヴィンセントさんも深くうなづいていました。
料理を“選ぶ”のではなく“委ねる”ことで、店主の料理観をより色濃く楽しむことができるのが「おまかせ」の醍醐味。目で楽しむ美しい盛りつけ、鼻をくすぐる出汁や香味、口に入れた瞬間に広がる舌触りと旨み――料理のひとつひとつに込められた料理人の思いや季節感を、ふたりもしっかりと感じ取ろうと、時間をかけてじっくりと味わっていました。
ひと皿ずつ丁寧に作られているのが伝わってきて、感動しました。どのメニューもとても上品で、繊細な味付けですね。素材に出汁がしっかりとしみ込んでいて、口の中でじゅわっと素材そのものの味と出汁の旨味が調和して広がっていきます。さりげなく添えてあるソースや薬味にもちゃんと役割があって、全体の味わいをきちんとまとめられている。すごくおいしいと思いました!
北新地 串かつ凡
串に宿る、職人の美学と創作の粋
北新地の飲食ビルに本館と離れを構える北新地串かつ凡。同店は旬の食材と味覚を、料理人の技と感性で組み合わせて創作した贅沢な串かつを「おまかせコース」でいただける名店です。
黒毛和牛ヒレ肉のシャトーブリアンや天然の車海老、北海道産の水ウニとキャビア、福井県産黒龍吟醸豚ヒレ×イタリア産トリュフ、ハンガリー産フォアグラなど、和洋の垣根を超えた贅沢な串の数々を、客が「STOP!」と声をかけるまで提供するスタイル(25本まで)。水揚げ後に殻を外したウニを、海水と同じ塩分濃度の水に浸して輸送される水ウニ。ミョウバンを使用しないため、ウニ本来の濃厚な風味を存分に味わうことができます。
目の前のフライヤーで一本ずつ丁寧に揚げられ、絶妙なタイミングで提供されるライブ感が楽しめます。「油の王様」と呼ばれる綿実油をベースにした独自のブレンド油で薄衣に揚げることで、油切れもよくあっさりとした口当たりとがあいまって、ついつい食べ過ぎてしまいます。
どの串も甲乙つけがたい、スペシャルなものですが、くり抜いたミニトマトにバジルチーズを詰め、スペイン産生ハムで包んだ串は創作性も高く、ひと口で複雑な香りと味わいが広がり、見た目の華やかさも抜群です。
「おまかせコース」の内容は、お好みに応じて“肉多め・魚多め”のリクエストや「25本は多い」と感じる場合は「16本まで」などのアレンジも可能です。
職人が素材の個性を引き出し、ひと串ひと串に技と心を込める――それが凡の“おまかせ”の醍醐味であり、まさに大人の贅沢です。
天ぷら 天星
シンプルだからこそ奥が深い極上の天ぷら
続いて紹介する天星は、和食の中でもっとも繊細といわれる天ぷらの世界で輝く名店。天神橋筋から1本入った路地裏にひっそりと佇む木造造りの建物に、カウンター10席だけの落ち着いた空間が広がります。目の前で揚げられる音と香りに包まれ、五感で天ぷらの魅力を体感できるのもカウンターならではの醍醐味です。
店主の出身地、熊本・天草直送の鮮魚や全国各地から厳選した旬の野菜を用い、職人の熟練の技と想像力で素材の旨味を最大限に引き出した天ぷらは、衣が軽やかで香り豊か。こだわりの揚げ油で後味もすっきり、素材そのものの味わいを存分に楽しめます。
月替わりの「おまかせコース」では、旬の魚介や野菜を絶妙な順番で提供。車海老のぷりっとした食感で口を清め、穴子や旬魚でうま味を味わい、ししとうや舞茸、かぼちゃなどの野菜で香りと食感の変化を添えます。季節によっては天草直送の鮮魚も加わり、揚げたての香り、衣のサクサク感、温度を五感で楽しむひとときは格別です。
添えられる天つゆも個性豊かで、素材の旨味を引き立てながら味わいに奥行きを添えます。食後には選べるご飯ものやデザートで締めくくります。お好みで、熊本名物の馬刺しも味わってみてください。
日本酒、焼酎、ワイン、シャンパンなど、天ぷらに合う一杯とともに楽しんでみてはいかがでしょうか。
中華そば工房 本町製麺所
こだわり出汁の旨味と自家製麺の食感に脱帽
最後にご紹介するのは、出汁にも麺にもこだわり抜いた“特別な一杯”を届ける中華そば工房 本町製麺所です。
大阪メトロ「堺筋本町」駅の改札を出てすぐ。黒門市場で乾物問屋を営む山長商店グループが「出汁のおいしさを伝える」ためにオープンした同店。2016年の開店以来、麺好きたちを魅了し、2021年には現在地に移転。以来、ビブグルマンに3年連続で選出される名店として知られています。
店構えは中華そば店というより高級和食店のようで、落ち着きがあり、洗練された佇まい。極上の一杯を食べていただくのにふさわしい雰囲気です。
看板メニューの「名物 中華そば」は、複数の削り節、昆布、鱧、鶏ガラを組み合わせた出汁と、ふくよかな香りの醤油スープが特長。出汁の香りだけでもう食欲がそそられます。麺は自家製で、スープとの絡みや食感のお好みによって、丸麺と平打ち麺の2種類から選ぶことができます。
店長によると「同じ水分量・同じ茹で方でも、日々の温度や湿度で仕上がりが変わる」とのこと。毎朝、当日の麺の状態を確認しながら最適な茹で時間を決定するこだわりぶりで、さらに「売り切れ御麺(ごめん)」のスタイルで、その日に用意した麺が売り切れると終了。新鮮さにこだわった潔い姿勢も、多くの客を惹きつける理由です。
お好みで山椒を加えると、香りと味に爽やかな刺激が加わり、スープの旨味がさらに引き立ちます。
美食を通じて大阪の粋な食文化に触れよう!
ヴィンセントさんご夫妻が巡った多古安と踝は、職人が磨き上げてきた技と、素材への敬意、客への心配りが肌で感じられる名店。
いずれのお店でも、派手さや賑やかさの奥に、見えかくれする粋なはからい。料理を選ぶのではなく、委ねる喜びを体験することができます。日本食で人気を誇るラーメンや串カツ、天ぷらにも、くいだおれのまち・大阪らしい素材選び、出汁へのこだわりが光っていました。
ゆったりと食事を楽しみつつ、大阪ならではの食文化も体験したい旅行者にぴったりだと言えるでしょう!
Photo : 二宮幹(Motoki Ninomiya)
Edit :週刊大阪日日新聞社
Direction:人間編集舎