大阪グルメの定番、粉もん。その多くは客が店を育て、店が技を磨いて洗練されてきたものです。学生時代から粉もんに魅せられたという日本コナモン協会会長の熊谷真菜さんに、たこ焼き、お好み焼きだけじゃない、個性豊かな食の世界をご紹介いただきます。
大阪の食文化を語るうえで外せないソウルフード「粉もん(コナモン)」。長らく庶民から愛されてきたたこ焼き店やお好み焼き店は、大阪グルメの代表格として国内外を問わず多くの客を集めています。とはいえ、粉もんの定義はたこ焼きやお好み焼きにとどまるものではありません。
そもそも粉もんのルーツにあるのは、江戸時代から大阪で続く出汁の文化だと語るのは日本コナモン協会会長の熊谷真菜さん。もちもち柔らかい麺と風味豊かな出汁が特徴の大阪うどんは、同じく出汁をふんだんに使うたこ焼きやお好み焼きと共通しています。
うどんがそうであるように、小麦粉をはじめとした穀類や豆類由来の粉を使った食べ物は、いわばすべてが粉もんといえます。完成形はさまざまですが、焼きそば、とん平焼きなど、少し視野を広げて見れば大阪の粉もんは非常にバラエティに富んでいることが分かります。今回は40年以上にわたって粉もんの研究や普及に向けた活動を展開する熊谷さんと一緒に、その味わい深い魅力に迫ります。
Guide
食文化研究家、日本コナモン協会会長、第57回食品産業功労賞国際食文化部門受賞。食文化100年継承・鉄板会議実行委員会代表、道頓堀たこ焼連合会主宰、全日本・食学会理事。NYコナモンフェスティバルでは、道頓堀やきそばを紹介。世界20か国を訪ね、食文化普及の交流会を実施。2万人以上の人にたこ焼きやお好み焼きの調理法を指導する。さらに年間750軒以上の店舗リサーチなど、身を粉に、粉を身につけて活動中。
日本コナモン協会公式サイト
ここは押さえて! 王道の名店で粉もんの実力を堪能
01. 甲賀流の「たこ焼き」(大阪市中央区)
素材にこだわり抜いたたこ焼きには
半世紀にわたる研究の成果がぎっしり
1974年、アメリカ村は三角公園の目の前で創業した、大阪が誇るたこ焼きの名店。昆布やイリコなどからひいた出汁自慢の生地、特製ブレンドのソース、卵黄だけを使った濃厚なマヨネーズなど、素材にとことんこだわり抜いたたこ焼きが楽しめます。その人気ぶりは海外にも轟いており、フランスの有名グルメガイドに掲載されたことも。美しい焼き色、ぷっくりと愛らしい「これぞたこ焼き」なビジュアルに思わず食欲がかき立てられます。半世紀以上にわたるあくなき研究の成果は、まさに大阪たこ焼きのスタンダードといえるでしょう。
「たこ焼きにマヨネーズは邪道」といわれていた時代から、お好み焼きでも定番の網がけスタイルを確立。ソースマヨという新たな王道で一世を風靡しました。2代目、3代目と代替わりを経ても鋳物の鉄板を操る職人のスキルは健在。最高品質のマダコと生地のコンビネーションが絶妙です!
02. お好み焼 ゆかり 千日前店の「特選ミックス焼」(大阪市中央区)
“混ぜ焼き”の奥義がきらりと光る
大阪お好み焼きチェーンの看板選手
地元からも根強く支持される創業70年超の老舗チェーン。チェーンとあなどることなかれ、具材と生地を混ぜ込んで焼く大阪ならではの「混ぜ焼き」を、どの店に行ってもハイレベルに提供しており、外はカリッ、中はふんわりと仕上げられたお好み焼きを味わうことができます。そこにアクセントを加えてくれるのはシャキシャキの国産キャベツ。香りも風味も豊かなオリジナルソースを、鶏ガラと香味野菜を丹念に煮出した出汁が支えます。豚バラ、イカ、ムキエビが入った特選ミックス焼、一玉1キロもあるボリュームメニュー・大坂城など、選ぶ楽しさもリピーターを呼んでいます。
お好み焼きは広島のように具材と生地を重ねて焼く「重ね焼き」のスタイルで生まれましたが、大阪では「混ぜ焼き」が定着しました。実は混ぜ焼きをおいしく焼くためには、相当なテクニックが必要です。その意味でゆかりは技の継承がお見事。豚玉以外にもユニークなアイデア商品が揃うのも魅力です。「ザ・大阪のお好み焼き店」という雰囲気も楽しい!
03. 本とん平の「とん平焼き」(大阪市北区)
これがとん平焼きの“本家本元”!
昭和レトロな店でルーツに触れる
お好み焼き店のみならず、居酒屋などでもおなじみのとん平焼き。ロシア料理の影響を受けた和風クレープのような料理です。そして、その元祖がこちら。曽根崎お初天神通り商店街に終戦直後から店を構える本とん平です。使い込まれた鉄板が並ぶコの字のカウンターのみの店内は、まるで昭和にタイムスリップしたかのよう。テキパキとした仕事ぶりを眺めることしばし、目の前に提供されるとん平焼きは量感のある生地と卵で豚ロースを包んだ、食べ応えのある逸品です。ふわふわと優しい口当たりに、生地本来の味わいを引き立てる自家製のソースとマヨネーズが加われば、ビールが進むこと間違いなし!
粉を使っていないものも多いなか、やはり原点ともいえる店で食べるとん平焼きが一番おいしい! 生地と厚切りの豚ロースに卵を加えて仕上げる食感、そこにからむソース、マヨネーズ、からし、ケチャップのバランスがたまりません。私の祖父が本とん平のファンで、自宅でも母が再現してくれたこともある思い出の味です。
04. お好み焼き でんの「道頓堀やきそば」(大阪市西成区)
大阪の人の暮らしのすぐそばで
厳選食材の焼きそばを味わおう
泉州・射手矢農園の松波キャベツをはじめ、生産者とのつながりを大切に厳選食材を取り揃え、多彩なメニューと行き届いたホスピタリティでもてなしてくれる店。キャベツをたっぷり使ったお好み焼きも見逃せませんが、生麺でつくる焼きそばも好評です。食感を引き出すため、注文が入るごとにゆでられる卵麺はもちもちとした弾力感たっぷり。ソースや塩だれとのからみも抜群で、ひと口食べればお箸が止まりません。観光地からは少し離れた大阪の人々の生活が息づくロケーションもまた、ソウルフードを味わううえで気分を高めてくれるはずです。
西成エリアを代表するお好み焼き店の注目ポイントは、若手女子チームの鉄板技。お好み焼きが焼けるのを待つ間に焼きそばを食べるスタイルは、大阪ならではのものです。おすすめは千切りの大葉が美しい「塩そば」と、道頓堀開削400周年を記念して大阪鉄板会議で開発した「道頓堀やきそば」。特に「道頓堀やきそば」は、極太麺に濃厚な道頓堀ソースがベストマッチです!
05. 吾妻の「ささめうどん」(池田市)
幕末から続く大阪うどんの名店で
あの文豪にゆかりの一杯をどうぞ
創業はなんと幕末期の1864年。大阪に現存するうどん店のなかでも最古とされる店です。名物はなんといってもささめうどん。文豪・谷崎潤一郎の夫人が来店した際に、小説『細雪』のタイトルから名前をもらった一杯は、細めの麺にあんかけの汁がマッチし、スルスルと食べ進められます。真昆布、かつお、ウルメイワシなどから取った出汁も、風味豊か。その香りを逃さないよう口の狭いとっくりに入れ、注文のたびに温め直すのも出汁を重んじる大阪ならではの流儀です。讃岐うどんとはまた異なる大阪らしいうどんを求めて、老舗ののれんをくぐってみては?
能勢街道に沿ってのれんを出す店は、かつての宿場町をしのばせる重厚な店構え。歴史が詰まったすてきな空間で、真昆布出汁と甘いお揚げさん、麺の三位一体で楽しむ、江戸時代から変わらぬ大阪うどんの真髄に触れられます。「ささめ、きつね、えび餅入り」は女性人気ピカイチ!
進化形&変化球も! 粉もんのポテンシャルを知ろう
06. AT THE 21の「モダン焼き」(豊中市)
オリジナリティを散りばめて
21世紀を先取りした“進化形元祖”
1984年、豊中市の閑静な住宅街に忽然と現れたお好み焼き界の「ニュー・スタンダード」。風変わりな店名は21世紀を意識したもので、ガラス張りの外観はカフェを思わせる雰囲気ですが、提供されるお好み焼きはこだわりたっぷりです。生地は上質な小麦粉をベースに鶏ガラや昆布などをブレンドした出汁を合わせ、キャベツのほかにちくわやねぎを加える独自性にあふれたもの。まるでオムレツのような玉子が乗った迫力満点のモダン焼きは、写真映えすること間違いなしです。多種多様なトッピングで自分好みの一枚をつくるのもおすすめです。
オープン当初はお好み焼き店らしからぬ屋号と外観で、近所の人も「入るのに勇気が必要だった」と語る進化形のパイオニア。しかし、混ぜ焼き本来のおいしさと店主のキャラクターが好評を博し、今ではなんばにも2号店ができて代々通うファンが絶えません。口のなかでほぐれるような生地の食感、ソースとマヨのバランスもよく、何種類も頼んでシェアしたくなります。
07. たぴおか食堂の「すじねぎ焼き」(大阪市天王寺区)
“ねぎ焼き=薄い”の概念を覆す
ボリューム満点のねぎマウンテン
イタリアン出身の店主が阿倍野の老舗で修行し、寺田町の住宅街に開いた店。ちなみにねぎ焼きとは、お好み焼きのキャベツがねぎに置き換えられた料理を指します。こちらの名物のすじねぎ焼きは、もはや生地が見えないほどに積み上げられた青ねぎの山に、思わず目を見張ること間違いなしです。肝心の生地もしっかりとした厚みはありつつ、ふんわりと焼き上げられており、ほかのねぎ焼きとは一線を画したここにしかないもの。見た目のインパクトだけではなく、職人の確かな技術が光るだけあって行列は必至です。ねぎ焼き以外にもすじ塩キャベツ炒め、焼き万願寺とうがらしなど、多彩な鉄板メニューが揃うのもうれしいところといえるでしょう。
ねぎ焼きにすじこんがどっさりと乗り、その上に青ねぎの山ができるほどの盛りっぷりのすじねぎは、客にあおられるようにしてどんどんボリュームアップしていったそう。「満載感」がありながら、うまく一つにまとまっているのは店の腕の見せどころです。分厚すぎるねぎ焼きに、思わず歓声が上がります!
08. 阪神百貨店の「いか焼き」(大阪市北区)
大阪人がこよなく愛するスナック
炭水ファン垂涎のお弁当も◎
阪神梅田本店の地下1階、気軽に軽食が楽しめるスナックパークで絶大な人気を集めるのが阪神名物いか焼き。大阪人なら知らない人はいない名物グルメです。出汁と小麦粉にイカを練り込んだ生地を高温の鉄板で焼き上げたいか焼きは、イカの香ばしさとプリプリ食感にソースが好相性。基本のいか焼きを押さえたら、玉子入りのデラバン、ねぎ入りのネギいか焼きなどほかのメニューも楽しみたい。5種類のいか焼きがひじき入りの炊き込みごはんの上に鎮座する、いか焼きのっけ弁当も密かに好評です。これでもかという炭水化物のオンパレードに身を委ねてみては?
定番中の定番、阪神名物いか焼き。おやつに、おみやげにと購入する人の目的もさまざまで、愛され度の高さがうかがえます。一度に何十枚も買っていく人の姿は、昔から変わらぬ阪神ならではの光景。もちろん、甲子園での阪神タイガースの公式戦に持ち込む人も多くいます。
09. 泉州かしみん焼き はこの「かしみん焼き」(大阪市北区)
岸和田名物のパリパリ食感を
大阪を代表する夜の街で味わう
大阪府の南部、岸和田市のご当地グルメ・かしみん焼き。水で溶いた小麦粉を薄く伸ばし、キャベツと親鶏、牛脂のミンチを乗せた一銭焼きにも似た知る人ぞ知る粉もんです。ちなみに「かしみん」とは、関西でいうかしわ(鶏肉)とミンチの略。お好み焼きよりもクリスピーでライトな口当たりは、お酒のアテにもぴったりです。北新地の「はこ」では、女性人気の高いトマトチーズかしみん、月見かしみんなどアレンジメニューも用意。鉄板焼き、一品料理、つけ麺など、サイドを固める布陣も磐石なので、粉もん飲みには最適な店といえるでしょう。
鶏肉と牛脂のうまみがしっかりと伝わってくるパリパリ食感は唯一無二。泉州ご当地のレアな味わいが北新地や裏なんばで味わえる時代が来るなんて、かしみんファンとしてはホンマにありがたいことです!
10. 串かつだるま 道頓堀店の「串かつ」
“二度漬け禁止”の発祥?
創業100周年を控える串かつの名店
1929年創業、押しも押されもせぬ大阪串かつ文化の代表選手。きめの細かい衣をまとった串かつは口当たりもよく、サクサク感のあとにもちもち感が追いかけてくる仕上がりです。揚げ油にもこだわっており、胃もたれせずに次々と食べられるのも特徴。厳しい要件をクリアした「揚師(あげし)」の存在が、串かつの味わいを支えています。社長兼会長の上山勝也さんを模したマスコットもすっかりおなじみ。一説によると、串かつの「ソースの二度漬け禁止」ルールを一般化させたのはだるまだとも。間もなく100周年を迎えようとする老舗が培ってきた大阪の味に、舌鼓を打ってみてはいかが?
新世界名物の串かつでしたが、この10年で大阪を代表する揚げもんとして定着しました。ていねいに串刺しされた具材にバッター液をまとわせ、きめ細かなパン粉を手早くつけて油に投入。キャベツを食べながら一連の流れを見つめるところからおいしさは始まり、あっという間に20種ぐらい! ソースはニ度漬け禁止やで〜。
多様性に富んだ大阪の粉もんを味わい尽くそう
たこ焼き、お好み焼きという本命のみならず、ご当地グルメに「進化形」に至るまで、大阪の粉もん文化は極めてバラエティ豊か。数々の店を訪ね歩くうちに、このような「生態系」の背景には、出汁を多用する上方の食の歴史があることがよく分かりました。熊谷さんの言葉を借りるなら「店が客に育てられ、技を磨いてきた」こともまた、粉もんがここまで発展してきた大きな理由といえそうです。大阪らしい双方向のコミュニケーションから生まれ、いまもなお変化を続ける食文化を改めて見直してみてはいかがでしょうか。
Photo:北川暁(Satori Kitagawa)
Edit:トミモトリエ(Rie Tomimoto)
Direction:人間編集舎