古墳時代の歴史と文化を色濃く伝える羽曳野市。世界文化遺産「百舌鳥(もず)・古市古墳群」の構成資産である大型前方後円墳が集中しており、古墳文化の中心地の一つです。大阪にお住まいの小説家・蓮見恭子さんと共に、歴史のロマンを感じる古墳・史跡をめぐりながら、ランチやお土産探しが楽しめるモデルコースをご紹介します。
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大阪:世界遺産エリア、日本の歴史と文化に触れる埴輪作り体験
- 約1,500年前の古墳時代に多くの埴輪が作られていた地で、世界に一つだけのオリジナル埴輪づくり
- 通常1か月以上かかる埴輪作りも、特殊な粘土の使用で当日そのままお持ち帰り
- 焼き上がりの待ち時間は自由に応神天皇陵古墳や、約1,000年の歴史を持つ神社への散策も。
大阪府南東部に位置する羽曳野市には、全国トップクラスの規模を誇る応神天皇陵をはじめ、世界文化遺産「百舌鳥・古市古墳群」に含まれる大型前方後円墳がいくつもあります。
また、古市古墳群では数多くの精巧な埴輪がつくられました。これらの埴輪は羽曳野市文化財展示室で間近に見ることができます。近くには埴輪を焼いた窯跡も残っています。
歴史的な価値に加え、そのフォルムや存在そのもののファンも多い古墳や埴輪たち。古墳があちこちにあり、埴輪づくり体験もできる羽曳野市は古墳ファンが訪れる町です。
今回、古代の歴史が息づく羽曳野市をガイドしてくれるのは、大阪府堺市出身の小説家・蓮見恭子さん。
蓮見さんは、大阪のとある“古墳の町”を舞台にした小説『はにわラソン いっちょマラソンで町おこしや!』の著者で、取材を通して古墳文化にも興味を持たれたそうです。
『はにわラソン』は、市役所職員の主人公が新市長からの無茶ぶりを受けて、町おこしマラソン大会の開催のために奔走するというストーリー。素人ばかりの準備チームを率いて、難航するコース設計や反対する住民への説明会、資金不足など、次から次に発生する問題を乗り越えていきます。
小説には架空の3つの市が登場します。蓮見さんは取材で羽曳野市の古市を訪れた際に、この土地のおおらかな雰囲気に惹かれて、ここを作品の舞台の中心にしようと考えたそうです。作中には、登場人物たちの目を通して描かれる古墳に囲まれた町の風景や、大阪らしいやりとりが随所に登場します。
古墳の魅力や歴史に触れながら、ランチや体験、お土産探しを楽しめるモデルコースをご紹介していただきます。
Guide
小説家。大阪府堺市生まれ。大阪芸術大学美術学科卒業。2010年、『女騎手』で第30回横溝正史ミステリ大賞の優秀賞を受賞し、デビュー。 2020年に『たこ焼きの岸本』で第8回大阪ほんま本大賞を受賞。近著に『人魚と過ごした夏』『神戸北野メディコ・ペンナ 万年筆のお悩み承ります』『君と翔ける 競馬学校騎手課程』、『はにわラソン いっちょマラソンで町おこしや!』など。
地元愛に満ちた“埴輪と古墳”のパンをお持ち帰り
コースの出発は近鉄南大阪線古市駅から。 最初に訪れたのは、駅から徒歩5分のところにある「aozora bakery」。町のパン屋さんとして10年以上親しまれ、かわいらしい店内にはおいしそうなパンがたくさん並んでいます。
aozora bakeryの人気商品は、埴輪を模したほんのり甘いパン「はにちゃん」と、小麦が香る「前方後円墳食ぱん」。前方後円墳食ぱんは、百舌鳥・古市古墳群への応援の意味を込めて、2019年の世界遺産登録前から販売しているそう。地元愛が伝わってきます。
はにちゃんと前方後円墳食ぱん、かわいいですよね! 古墳めぐりのお供にしても良し、お土産にしても良し。売り切れが心配なときは、電話で取り置きがおすすめです。
人々の暮らしのすぐ近くに古墳あり
aozora bakeryから少し歩くと、古市駅に一番近い古墳「白鳥陵古墳」が見えてきます。
住宅街のすぐ近くにある古墳で、宮内庁によって日本武尊(ヤマトタケル、景行天皇皇子)白鳥陵に指定されました。日本武尊が白鳥に姿を変えてこの地に舞い降りて、羽を曳くように飛び去ったという白鳥伝説が羽曳野市の名前の由来にもなっている重要な場所です。
「羽曳野は空が広いイメージがあります」と蓮見さん。
過度に観光地化されておらず、人々の生活の中に古代から続く貴重な場所が遺(のこ)されているところに惹かれるのだとか。
前を通る道は、飛鳥時代に「大道」として整備された日本最古の官道「竹内街道」。堺〜奈良を結ぶ歴史街道から、古代に思いを馳せつつ古墳を眺めてみましょう。
豊かなグリーンに癒されます。古墳のすぐそばに家があるのも、この町の魅力。なんだか人の家の庭を歩いているような感覚ですが、そんな中に古代の古墳があるのが良いですよね。
人気の古墳カレーに注目! 古墳に囲まれた水辺のカフェ
白鳥陵古墳から15分ほど歩いて「フラワー 竹内街道軽里店」に到着。
こちらは素材にこだわった洋菓子とパンのお店で、竹内街道軽里店では自然栽培米を使った体にやさしいカフェメニューを楽しめます。
いただいたのは「古市古墳群カレー」。2019年の世界遺産登録を記念して考案されたメニューで、前方後円墳を模したビジュアルが古墳ファンに人気です。
ご飯は和歌山県産の自然栽培米と、大阪府南河内郡の大和葛城山の湧水で育てたお米をブレンドし、栄養がしっかり残るように2分精米。自社農場や地元農家で育った旬の野菜がトッピングされ、おいしいだけではなく健康面も意識したカレーです。
そしてデザートは「マダム・ヨーコ」。ほんのりクリームチーズがやさしい、ふわふわ食感の看板スイーツです。
白鳥陵古墳だけでなく、周辺には峯ヶ塚古墳もあって、古墳めぐりの休憩にぴったり。大きな窓があって、目の前に池と空が広がっている気持ちの良いカフェです。カレーはマイルドな辛さで、いろいろな野菜を楽しめるのもうれしいですね。
カフェ / 9:30~17:00 ※オーダーストップ 16:30
羽曳野市出身のメジャーリーガー! ダルビッシュ有選手のデザインマンホールも
フラワーから竹内街道を挟んで位置する「羽曳野市立生活文化情報センターLICはびきの」の交流広場には、ちょっと変わったマンホールがあります。
羽曳野市出身のメジャーリーガー、ダルビッシュ有選手のデザインマンホールです。
MLB(Major League Baseball)が企画した日本人選手12名デザインマンホールプロジェクトの一環で、QRコードをスマホで読み取るとARショートムービーが楽しめる仕様になっています。
貴重な資料を間近に! 羽曳野市文化財展示室
デザインマンホールのある地点から20分ほど歩いて、羽曳野市文化財展示室に到着しました。
こちらは蓮見さんの特に一押しスポット。
2014年に開設された展示室で、古市古墳群の各地から発掘調査で出土した埴輪や副葬品が100点以上保存・公開されています。そのほとんどが、ガラスケース越しではなく直に見ることができるというのが大きな特徴です。
埴輪といえば、真っ先に浮かぶのは目と口がある人物埴輪。
しかしこの展示室では、それよりも古い時代の円筒埴輪や、家や動物をかたどった形象埴輪がたくさん展示されています。どれも貴重なものばかりで、好きな角度からじっくり眺められるというのはとても珍しい体験です(くれぐれも見学は慎重に!)。
また、展示室を利用する際は、羽曳野市の文化財・世界遺産室の職員の方が案内してくれるというのも蓮見さんの推しポイント。展示物について気になることを質問できるのはもちろん、発掘調査や古墳の保存についてなど、幅広く聞くことができます。
私の一押しスポットです。職員の方にお話を直接聞けるのも良いですよね。気になることがあったら、たくさん質問してしまいます。今回も「過去に壊されてしまった古墳もあるけど、保存されている古墳の基準はなにか」について質問すると、地図を見ながらわかりやすく教えていただきました。あとは、近くの峯ヶ塚古墳から出土した貴重な副葬品もぜひ見てもらいたいです。魚佩(ぎょはい)という装飾品や、花形飾りなど、細工が細かくて驚かされます。
史跡を身近に感じよう。住宅に隣接している古墳や埴輪の窯跡を眺める
羽曳野市文化財展示室のすぐ近くには「墓山古墳」があります。周囲には、墓山古墳に付属する「陪塚(ばいづか)」と見られる古墳があり、前方後円墳の形がわかりやすいのが見どころです。
せっかくなので、「西馬塚古墳」にも行ってみましょう。古市古墳群の中央部に位置し、住宅に隣接している古墳です。
西馬塚古墳から少し歩いて国道170号線の反対側に行くと、埴輪を焼いた窯跡「誉田白鳥埴輪製作遺跡」があります。1969年に偶然発見された埴輪窯は長さ6〜7m、幅1.5mほどの大きさのあな窯で、これまでに11基の窯跡が確認されています。5世紀から6世紀前半にかけて、古市古墳群の地元誉田で埴輪づくりが盛んだったことがうかがい知れます。
古墳&埴輪アイテムをお土産に。埴輪づくり体験もできる魅力発信スポット
誉田白鳥埴輪製作遺跡から5分ほど歩くと、ユニークな埴輪たちが描かれた建物が現れます。
古墳や埴輪の魅力を発信する施設「河内こんだハニワの里 大蔵屋」です。
中に入ると、古墳や埴輪をモチーフにしたグッズがずらり。
印刷会社が運営母体なので、オリジナルの文具アイテムが特に充実していて、付箋メモ、クリップなどを購入するお客さまが多いのだとか。
「大蔵屋さんにはとてもお世話になっています。店頭に『はにわラソン』を置いてもらっているほか、私の講演会やイベントなどでも著書を販売していただいています」と蓮見さん。資料やパンフレット、古市古墳群の大型空撮写真が展示されている「古墳ギャラリー」の併設や、イベントの開催など、古墳や埴輪の魅力発信スポットとしても大きな役割を担っている場所です。
また、ここでは「御陵印台紙」も販売しています。
「御陵印」とは古墳を参拝した際にいただくことができる証で、百舌鳥・古市古墳群では17の御陵印をいただくことができます。そして売り場の一つ下のフロアに降りると、埴輪づくり体験のワークショップスペースが。
体験は1日2回、90分の開催で、最初に古代の埴輪のつくり方を教えてもらいます。そのあとの体験では、自由にオリジナルの埴輪をつくっていきます。
飾られている作品を見ると、個性豊かな人形埴輪や、ゆるかわいい動物の埴輪など、その形はさまざま。子どもから大人まで楽しめる体験として、リピーターもいるほど人気なんだそう。
古墳の形って洗練されているので、どんなアイテムをつくっても不思議と違和感がない気がします。私もブローチやキーカバーなど、実用的なものを普段使いに取り入れています。古市古墳群を紹介した冊子も手に取ってほしいです。
体積は日本一! 森のように巨大な「応神天皇陵」
河内こんだハニワの里 大蔵屋から15分ほど歩くと、古市古墳群で一番大きな「応神天皇陵」に到着します。
全長約425mで、日本で2番目に大きな前方後円墳ですが、体積では第1位。後円部の高さが36m、墳丘の体積は143万㎥です。
5世紀前半の大王墓と推定されていて、宮内庁より「応神天皇陵」とされ、古市古墳群を代表する存在。春には菜の花畑が広がる西側の外濠外堤の跡地は国指定史跡でもあります。
応神天皇陵の墳丘に生い茂っている樹林は、人の手が加えられておらず、自然な状態で育ったものだそうです。古墳といえば仁徳天皇陵古墳が有名ですが「こっちには、応神さんがあるよ!」と目を向けてもらえるようにするのも小説家の役目だと思い、何度も通って取材させてもらいました。『はにわラソン』の「応神さん」をモデルにした古墳のシーンにも描きましたが、ここに来るとやっぱり空気が神聖で、外とは違うように思います。この場所で古代の人々が土を運んで、大きな墳丘をつくったのかと思うと、ここが古代とつながっているんだという感覚を強く感じます。
そして、応神天皇陵の北側にある宮内庁古市陵墓監区事務所では、管理されている17の御陵印をいただくことができます。事務所に声をかけると御陵印を出していただけるので、自分で一つずつ押印していきます。
御陵印を押すのは初めての体験だったので、緊張しました。御陵印があるのは、日本全国でも5カ所だけなので、訪れたらぜひ記念にいただいてほしいですね。
住所:大阪府羽曳野市誉田6丁目
コースのラストは日本最古の八幡宮「誉田八幡宮」へ
応神天皇陵の南に鎮座し、6世紀後半に創建されたと伝えられる日本最古の八幡宮。応神天皇が主祭神に祀られ、安産や厄除けのほか、商工業の祖神、学問芸術の親神として信仰されてきました。
世界遺産に囲まれた町、羽曳野市で古墳を眺めて古代に思いを馳せてみて
コースを歩き終えたあと、「電車の窓から見える古墳と夕焼けもきれいなんですよ」と蓮見さんは教えてくれました。
古代の遺跡が、いまも人々の暮らしのすぐそばに息づく羽曳野市。広い空とゆったりとした空気は、1500年以上の時を超えて、この地に変わらず流れているようです。
世界遺産に囲まれた町並みを歩きながら、過去と現在がつながる時間を感じてみてください。
Photo:北川暁(Satoru Kitagawa)
Edit:プレスラボ(press labo)
Direction:人間編集舎
関連ツアー
大阪:世界遺産エリア、日本の歴史と文化に触れる埴輪作り体験
- 約1,500年前の古墳時代に多くの埴輪が作られていた地で、世界に一つだけのオリジナル埴輪づくり
- 通常1か月以上かかる埴輪作りも、特殊な粘土の使用で当日そのままお持ち帰り
- 焼き上がりの待ち時間は自由に 天皇陵古墳や、約1,000年の歴史を持つ神社への散策も。