日本の原風景と穴場温泉旅館。カメラ片手に河内長野の天見・流谷地区で癒しの日帰りトリップ

美しい棚田や豊かな自然が残る河内長野市の天見・流谷地区。今回はこの知る人ぞ知る大阪府と和歌山県の府県境にある里山を、カメラ片手に散策してみます。ランチは老舗旅館「南天苑」で、旬の食材をふんだんに使ったコースを。そして最後は温泉で一息。心も体も癒される贅沢な時間を過ごしに、香港出身のレイチェルさんご夫婦が散策しました。

南海天見駅の前で

Guide

レイチェル・ビー

香港・九龍出身。愛すべき柴犬2匹とともに、箕面暮らしを満喫中。インフルエンサーとして活動し、日本での生活や柴犬との暮らしをInstagramで発信。今回が初めての河内長野。

本山拓真

大阪府箕面出身。同じく河内長野へは初めて訪れた拓真さん。「想像以上にこじんまりした風情のある天見駅はかわいいですね。散策が楽しみです!」と里山歩きに期待。

日常から少し離れて。小さな駅舎から始まる、里山巡りへいざ。

南海天見駅の前で

爽やかな空気を感じ始めた晴天の初秋。南海電鉄天見(あまみ)駅で降りると、そこには小さな愛らしい木造の駅舎が。旅気分を盛り上げてくれるような佇まいに、胸がときめきます。
里山が美しく残る天見地区は、ウォーキングだけでなくサイクリングエリアとしても人気のエリア。駅前には散策におすすめのルートを紹介する地図も掲げられています。今回は、数あるウォーキングスポットの中から、八幡神社と石造十三仏の2箇所を目指して、さっそく歩き始めました。

駅からコスモスや畑を横目に歩き進めると、辿り着いたのは「出合ノ辻(であいのつじ)」と書かれた交差点。一見何の変哲もない交差点ですが、ここは実は歴史深き場所……。

出合ノ辻(であいのつじ)交差点

なんと1333年に後醍醐天皇方の武将・楠木正成軍と鎌倉幕府軍が「安満見合戦(あまみかっせん)」を繰り広げた古戦場跡と伝えられている場所なんです。立ち入ることはできませんが、左側に見える緑が生い茂る場所には、合戦で亡くなった武士たちを弔った塚があると言われています。何気ない交差点に、時代のワンシーンが潜む天見地区。物語を知ることで、好奇心がくすぐられます。

高野街道と記載された道路名表示板

「出合ノ辻」を渡り歩き進めると、道端には「高野街道」の文字。そう、ここは弘法大師・空海が高野山を目指して歩いた参詣道でもあるのです。そんな歴史を感じる銘板をパシャリ。
天見地域では、南北朝時代には八幡神社の宮司により、病気に苦しむ人達の湯治場として温泉が開かれたそうです。1700年代に火事で湯治場が消失してしまいましたが、それまでは温泉地として親しまれていたそう。弘法大師・空海が高野山へ向かう中で疲れを癒した温泉も、まさにここ天見温泉地だったと言われています。

道端の南天を撮影

そしてもう一つ、天見地域を語るのに欠かせないのは南天。歩きながらよくよく見ていると、至るところに南天の木が! 昔は南天生産の一大地だった天見地域は「南天の里」と呼ばれていました。現在は南天生産を専業している生産者はいないそうですが、至るところに南天の木が生えており、その歴史を物語っています。普段街中では見られない南天の木を前に、「こんなにたくさん!」と、シャッターを切るレイチェルさん。

南天のアップ写真

里山を彩るのは南天の木だけではありません。ところどころに彼岸花が咲いていたり、柿の木や栗の木には豊かなみのりがなっていました。

彼岸花の写真
赤々と咲く彼岸花が秋の始まりを教えてくれる
柿の実の写真
緑溢れる森林の中には、綺麗な実を実らせた柿の木が
栗の実の写真
秋の訪れを知らせてくれるような栗の実

駅からたった30分ほど歩くだけで、目の前にはグラデーションのような緑で彩られた壮観の里山の風景が! 「箕面にも自然は多いですが、この広大な景色は、普段目にする自然の景色と違っていいですね。地元・香港にもこういう景色はないし、田畑を目にする機会もなかなかありません。異国に暮らしているんだなぁって、しみじみと感じます」とレイチェルさん。

町の景観

歩いてみると、彼岸花やコスモス、そして柿や栗の木などさまざまな植物に出合えました。普段の生活ではこんなにさまざまな種類の植物に囲まれることがないので、本当に新鮮! この地域ならではの景色は、歩き甲斐があります。

地域の人との絆を感じる、八幡神社へ。

八幡神社の赤い橋

散策を続けると、遠くに赤い橋が見えてきました! いよいよ一つ目の目的地・八幡神社に到着です。

橋の上でツーショット
流谷川を背景に橋の上で記念写真!

橋を渡って小径を進んでいくと、拝殿を発見。

拝殿前

八幡神社は、石清水八幡宮の別宮として1039年に創建された歴史ある神社。里山にポツンと佇むこの神社、毎年1月6日頃には、神社の前を流れる流谷川に太いしめ縄が掛け渡される神事「勧請縄かけ(かんじょうなわかけ)」が行われています。神事で使うしめ縄は、流谷と下天見地区の氏子が、新わらを持ち寄ってみんなで縄を編んでいくそう。地域の人と神社や神事が密接に繋がる深い絆が感じられるエピソードに、この地域ならではの暮らしがうかがえます。

拝殿正面
八幡神社 拝殿
拝殿の鈴緒を手に
愛犬たちを含めた家族の健康を願って、お参り
本坪鈴の持ち手
艶やかな本坪鈴の持ち手部分。日々たくさんの地域の人たちが参拝に訪れているのだと感じます
境内の巨木
境内には河内長野市内では最大級とも言われるクスノキや、樹齢400年とされるイチョウなど、様々な巨木と出会えます

八幡神社をあとにし、散策を続けると、今度は光り輝く棚田「流谷の棚田」に到着。

流谷に広がる美しい棚田の風景
たわわに実った美しい稲穂

近づいてみると、たわわに実った美しい稲穂が。そんな棚田のすぐ近くの小径を登っていくと……

小さな小道の上り
冒険感のある小さな小道を上がっていく
坂の上には……
田園風景を背景に現れたのは……
市指定文化財「石造十三仏」

2つ目の目的地、市指定文化財の「石造十三仏」です! よくよく見てみると、花崗岩で作られたという本石造物には、十三体の仏様が彫られています。本石造物には名前などが刻まれており、中にはカタカナ表記の名前も。これは、キリシタンの洗礼名ではないかとの説もあり、河内キリシタン史や郷土研究にとって重要な資料とされています。

散策する中で見つけたお気に入りの景色は、流谷川に架かる赤い橋。日本らしさを感じて好きな風景になりました。橋を渡ると神社に辿り着けるというのも、なんだか探検をしているようで楽しいです。近くにあったイチョウの大木からは、自然のパワーをもらえたような気がします。

建築家・辰野金吾が手がけた老舗旅館「南天苑」へ

赤い欄干の橋と松の木がある日本庭園の風景

約1時間にわたる天見・流谷地区の散策を楽しんだあとは、天見駅の方へ戻り、老舗旅館「南天苑」へ。この大大阪時代をも思わせるレトロな建築は、中之島の中央公会堂や東京駅を手がけたことでも有名な、建築家の辰野金吾氏によるもの。

南天苑の入口

大正時代に建設した「潮湯」の別館として堺市大浜公園に造られ、1935年にここ天見へ移築。戦後の空白期間を経て、1949年に「南天苑」として創業しました。数寄屋造の建築は、飾りや円窓を始め内観も当時のまま。現在は国の登録有形文化財に登録されています。

そんな「南天苑」で、本日は日帰りプランを満喫することに。四季の会席料理と温泉を楽しめるプランです。

廊下の先にある温泉「極楽湯」

南北朝時代に温泉地だった天見ですが、その当時の温泉「極楽湯」の名を受け継ぎ、南天苑でも温泉「極楽湯」に入ることができます。

大きな窓から緑を望む室内温泉
緑豊かな景色が迎えてくれる「極楽湯」。窓を全開にして、露天風呂として楽しむお客さんも多いそう。

食事と温泉がセットになった2時間半の日帰りプランでは、温泉に入るタイミングは自由に選べます。今回は食事前に温泉へ浸かり、リセット。浴衣(別料金)に着替えて、日本庭園を望めるお部屋でゆっくりとしたひとときに身を委ねました。

縁側でくつろぎながら庭園を眺める風景

一息ついたところで、お料理が運ばれてきました。本日選んだのは「四季の会席料理 風コース」(税込8,800円 ※食事と日帰り入浴のセット、温泉のみの利用不可)。河内長野周辺の食材を始め、地域の旬の食材をふんだんに使ったお料理を11品いただくことができます。また、食前酒や食前のドリンクに、庭で採れた果物を使った自家製食前酒や酵素ジュースも楽しめます。

和室のテーブルに並ぶ豪華な懐石料理
懐石料理を前に案内人

月ごとに変わる献立は、優しく丁寧な味付けによって、研ぎ澄まされた素材の美味しさを感じる一品ばかり。「長寿のお祝いや子どもの百日祝い、結婚記念日に利用される方も多いです」と女将さん。最近は宿泊利用だけでなく日帰りプランを利用する外国人観光客も増えているそう。

懐石料理を前に乾杯!

温泉旅館でゆっくり羽を伸ばそうとすると、ある程度の時間やお金が必要になってきますが、日帰りで上質な会席料理と温泉が楽しめるときたら、ご褒美だけと言わずちょっとしたお出かけ先としても、ぜひ選んでみたいものです。

前菜の「柿白和え・秋刀魚わた焼き・海老手毬寿司・松葉銀杏・紅葉麩」
前菜の「柿白和え・秋刀魚わた焼き・海老手毬寿司・松葉銀杏・紅葉麩」。ひと皿で秋への想いがぐんと高まる
〆肴の「魳のけんちん焼・零余子真薯 公孫樹丸十・酢取り蓮根」
〆肴の「魳のけんちん焼・零余子真薯 公孫樹丸十・酢取り蓮根」
食事を味わう案内人
料理で季節を味わう贅沢なひととき
思わずにっこり
野菜や果物、魚など、すべて季節を感じる食材を使った料理に、思わずにっこり
日本庭園の橋の上で
会席料理と温泉を満喫したあとは、約3,000坪ある日本庭園を散策。奥には稲荷天神が建てられている
囲炉裏を前に向き合う案内人
陶器や調度品など、オーナーが集めた骨董品が並ぶ待合室。冬には囲炉裏で暖を取れる
来客外国人がピンを刺す世界地図
ロビーには世界地図とそこに刺さったたくさんの国旗が! この1年間で56ヵ国の人が訪れたそう。レイチェルさんも世界地図から香港を探してピン。
お土産コーナー
ロビーにはお土産もたくさん。レイチェルさんが手に取ったのは、南天苑・不動口館・不死王閣・大和屋本店大阪の4人の女将が考案した「なにわ女将の牛すじカレー」

「南天苑」では今回体験した日帰りプランだけでなく、茶道や生け花を体験できるプランや、甲冑体験ができるプランも。また、ベジタリアンやヴィーガン、ムスリムフレンドリーに対応したメニューなど、旬の食材をいろんな国の人に、安心して食べてもらえるような工夫が繰り広げられています。

犬を飼っていてなかなか気軽に旅行ができないので、日帰りで温泉旅館で過ごせるのは、旅気分を味わえてとても良かったです! お部屋からの日本庭園の眺めも美しく、食後のお散歩も楽しかったです。

あまみ温泉 南天苑
住所:大阪府河内長野市天見158
Google Map
営業時間:11:30~22:00(土曜・休前日・特定日は11:30~14:00) ※日帰りプランの部屋の利用は11:30~14:00まで ※宿泊利用の場合はチェックイン15:00、チェックアウト10:00
定休日: 不定休
電話番号: 0721-68-8081

思い立ったらすぐ出かけられる、自然と癒しに溢れた天見・流谷。

駅の待合室で写真を確認する二人

今回の散策は、これで終了。約半日という短い時間の中でも、さまざまな草木を愛でたり歴史に触れたりと、濃密な時間を過ごすことができました。「こんなに自然が溢れているので、次は紅葉の季節にぜひ来てみたい」とレイチェルさん。里山が残された自然だからこそ、季節によって異なる景色が存分に楽しめるはず。難波から約40分という近さで旅気分が味わえるのは、日常の中に少し贅沢な潤いを与えてくれそうです。また「南天苑」の近くには、「南天苑」が経営する古民家を使ったカフェ「久右衛門」もあるので、帰りに寄ってみるのもおすすめです。
ぜひカメラ片手にあなただけの天見・流谷の景色を切り取りながら、小トリップを楽しんでみてくださいね。

Text:小島知世(Tomoyo Kojima)
Photo:高津祐次(Yuji Takatsu)
Edit:高津祐次(Yuji Takatsu)
Direction:人間編集舎

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